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調査研究(平成21年度)

ナノマテリアル取扱における作業実態の評価と
ばく露防護のための労働衛生工学対策と労働衛生保護具の使用に関する研究

主任研究者 埼玉産業保健推進センター 所長 荒記 俊一
共同研究者 埼玉産業保健推進センター 相談員 田中 茂
    児島 俊則
    宇佐見 隆廣
    武石容子
東京産業保健推進センター 相談員 岩崎 毅
主任研究者 埼玉産業保健推進センター
所長 荒記 俊一
共同研究者 埼玉産業保健推進センター
相談員
  • 田中 茂
  • 児島 俊則
  • 宇佐見 隆廣
  • 武石容子
東京産業保健推進センター
相談員
  • 岩崎 毅

1. はじめに

 ナノマテリアルは100nm以下の微粒子であり、従来の材料にはない、優れた性質を有する新素材が得られる可能性が高く、今後様々な用途に使用されていくことが予想される。一方、ナノマテリアルに対する人の健康影響について未だ十分に解明されておらず、また、作業環境測定やばく露濃度測定方法も確立されていない。

厚生労働省では、ナノマテリアルの製造・取扱い等に従事する労働者の健康障害を未然に防止する観点から、当面のばく露防止の予防的対策として、平成20年2月7日に通達を、更に、検討会を開催し平成20年11月26日に報告書を発表された。有害性の把握や作業環境中の濃度測定が行えない中で、ナノマテリアルが使用されている現状では、労働衛生工学的対策や労働衛生保護具に関する対応が重要となる。しかし、ナノマテリアルを取り扱っている作業実態の把握は十分でないのが実情である。

今回、ナノマテリアルを取り扱っている4事業場を対象に、ナノマテリアルおよび労働衛生管理状況に関するアンケート調査を行い、3事業場に対して使用実態における作業環境調査を行った。更に、労働衛生工学的対策や労働衛生保護具の文献レビューを行い、ナノマテリアルに対する局所排気装置やプッシュプル型換気装置の有効な使用についての検討、呼吸用保護具の選定に対する検討を行ったので報告する。

2. ナノマテリアル取扱い事業場の聞き取り調査の実地

 4事業所より調査の協力を得た。ナノマテリアル取扱い従事者は2名から30名の間であったが、A事業所においては、正規職員が22名で、協力会社職員が8名の構成で作業が行われ、B、C、およびD事業所では、正規職員のみで作業が行われていた。使用ナノマテリアルはA事業所:シリカ、B事業所:カーボンブラック、C事業所:フラーレン、D事業所:カーボンナノチューブであった。4事業所における作業工程では、原材料の計量、投入、袋詰、加工等が共通した工程であり、それらの工程においてナノマテリアルを含んだ粉じん等のばく露防止のため局所排気装置等の設置と、呼吸用保護具の使用によりばく露防止対策がなされていた。定置式(囲い式・外付け式)の局所排気装置はA、B、D事業で用いられており、C事業所では、移動式(外付け式)局所排気装置が利用されていた。全体換気は、すべての事業所で行われていたが、機械換気法(強制換気)の採用は、B、C、D事業所であった。一方、A事業所では、窓等の開口部を利用した自然の空気の流れを利用した自然換気法が採用されていた。局所排気装置等の自主点検については、A、C事業所では1年に1回の点検、B事業所では月例点検、D事業所では日常点検がそれぞれ行われていた。除じん装置は、ろ過方式、あるいは過方式+HEPAフィルタが採用されていた。使用されている保護具は、取替え式防じんマスク、使い捨て式防じんマスク、防毒マスク、その他であった。

3. 調査実態調査

 4事業所のうち、許可された3事業所を対象に調査を行った。調査内容は、(1)作業場内の粉じん濃度を把握するために作業環境測定基準に則った粉じんの作業環境測定(2)作業者の粉じんばく露程度を把握するためのばく露濃度測定(3)P-Trakによる0.02~1.0μmの超微粒子の粉じん濃度測定(4)マスクフィッティングテスターによる作業者のマスクの密着性試験(5)局所排気装置の性能試験を行った。

3-1. A事業所における調査結果

 当該事業所内の断熱材製造工程にてシリカを含む超微粒子粉じんが使用されていた。工程としては断熱材素材を入れる袋を作製するためにガラス布を裁断・縫製する工程、断熱材素材を製造するために原料を混合する工程、縫製された袋に断熱材を充填する工程、充填後にプレス成型する工程、梱包工程等があった。現在の粉じんに対する管理濃度を参考に、作業環境測定結果を評価すると、裁断工程と梱包工程は第Ⅰ管理区分、加工+プレス工程は第Ⅱ管理区分、充填工程と混合工程の評価は第Ⅲ管理区分であった。 P-Trakによる超微粒子測定では、一部の作業で高い値を示し作業に起因する変動が確認された。個人ばく露濃度測定では、吸入性粉じん濃度が既存の許容濃度より上回ったのは10名中4名(40%)であった。全ての作業者が使い捨て式防じんマスク(ろ過材:DS1)を使用しており、防じんマスクの漏れ率は3.4%~71.4%と、多くの作業者において高い漏れ率を示した。6台の局所排気装置の性能試験を実施した結果、全て制御風速が基準値より低く、風速分布のばらつきが認められた。また、目視によりフード外への発じんも認められ、環境改善が必要であることを確認した。

3-2. B事業所の調査結果

 トナー製造で、ナノマテリアルを含むカーボンブラックやその他の粉体を混合器に投入する原料投入作業を対象に調査を行った。 過去の粉じんの作業環境測定の評価は、第Ⅰ管理区分は85%、第Ⅱ管理区分は8%、第Ⅲ管理区分7%であった。個人ばく露濃度測定結果で基準値を上回った値が、カーボンブラックの投入作業者で25%、その他の物質の投入作業者で16%を示した。原料投入におけるP-Trakによる超微粒子測定では、顕著な数値の上昇を認めることができなかった。防じんマスクの密着性試験では、投入作業者1名について取替え式防じんマスク(ろ過材RL2使用)を装着したときの漏れ率を測定した結果、8.8%と良好であった。2台の局所排気装置の制御風速が基準値より低い値であった。

3-3. C事業所の調査結果

 フラーレンを用いた研究開発を行っており、実験室にてフラーレンを秤量する工程、フラーレンにトルエンを添加した溶液をスピンコーターにて塗布する工程が行われていた。フラーレンの取扱い量がmgオーダーと大変少ないことより、全ての作業環境測定及び個人ばく露濃度測定とも低値であった。2名の研究者は2種類のマスクを使用し、国家検定品でない定活性炭入り使い捨て式簡易マスクの漏れ率:83.8%、と48.6%、不織布製簡易マスク:81.3%と70.6%であった。そこで、国家検定品の使い捨て式防じんマスク(ろ過材:DS2)の使用を指導して、3.7%と9.4%となった。使用していた移動式の局所排気装置の性能試験を行った結果、制御風速が不十分であり、万が一、フラーレンの発じんがあっても捕集除去できないことを示唆する結果であった。

4. まとめ

 (1)作業環境測定および個人ばく露濃度測定等の実施
 現在の粉じんを対象とした測定技術を用いて、作業環境やばく露状態の把握を行った結果、高い粉じん濃度の得られた箇所が確認、特定することができた。ナノマテリアルを対象とした測定法が確立されていない状況であっても、既存の粉じん測定を行いばく露を低減させるための環境改善や呼吸用保護具の使用を進めることが、結果としてナノマテリアル粒子によるばく露を削減されることに結びつくこととなる。
(2)P-Trakによる超微粒子測定
 作業環境測定におけるB測定位置を対象にP-Trakによる測定を行った結果、A事業場で、高い数値が得られる部署、作業が確認され、ナノマテリアル粒子の浮遊が示唆された。
(3)局所排気装置の性能確認とプッシュプル型換気装置の設置の提案
 3事業所とも局所排気装置を設置、稼働されていたが、性能が十分に発揮されていないことが確認された。一部の作業場では、スポットクーラーが使用され、その風量による局所排気装置の排気への影響も認められた。問題のある局所排気装置については作業方法等を考慮して、新たにプッシュプル型換気装置と設計資料を作成、提案した。A事業所での原料投入の改善例として図を示す。

 (4)ろ過式呼吸用保護具の選定  3事業所とも、通達で指導されている捕集効率99.9%以上のろ過材を用いた防じんマスクは使用されていなかった。今回の調査結果を踏まえ、ナノマテリアル粒子の存在が示唆された作業や、高い粉じんばく露の作業では、電動ファン付き呼吸用保護具(ろ過材:99.9%以上の捕集効率)を、低い粉じんばく露では防じんマスクを使用し、高い捕集効率のろ過材を選定することと、正しい装着の指導を提案した。

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